ITS & Automotive Systems

本ブログは Research & Consulting on ITS/Automotive Systems (www.sakuraassociates.com) のコメンタリーとインタビューのサイトです。ご投稿は敬意を以って歓迎、尊重致します。Norio Komoda 製作開始 2006年1月、公開 2007年1月

February 01, 2006

安全で優れた交通資産を後世に

  *1 目次
1.
はじめに - 今、何が起こっているか
2.交通問題の課題と経緯
3.米国陸上交通・輸送法SAFETEA-LU: セーフティ・ルーの大幅予算増
4.主要施策とプロジェクト
5.おわりに

1.はじめに - 今、何が起こっているか

交通・輸送は国民の生活の質であり国家生産性の根幹である。元ミネタDOT長官が好んで講演で用いた言葉である。今、円滑、安全で、環境に優しいITS*2と言う路車協調システムと共に、インターモーダル*3な人流・物流システムを後世に残そうとする施策が進んでいる。ここでは、主に、米国の動向を述べる。

注:
*1 本タイトルの『安全で優れた交通資産を後世に』は、05年8月成立の米国陸上交通・輸送法で、SAFETEA-LU:セーフティ・ルーの呼称の意図を示す。SAFETEA-LUとは、Safe, Accountable, Flexible, Efficient Transportation Equity Act for the 21st Century – A Legacy for Usersの略称であり愛称である。
*2 ITS:Intelligent Transportation Systems:路車に、通信、センサー、制御機能を装備し、ナビ、交通情報、位置情報、自動課金、衝突防止等のサービスや機能を提供するシステムの総称。
*3 インターモーダル:複数モードの交通結節点を円滑に利用し易くする交通・輸送システム。

2.交通問題の課題と経緯

ファン・トゥ・ドライブと言うクルマを取り込んだ新ライフスタイルが、数十年前に到来し、裏腹に交通・輸送はワイルドライフに突入した。大戦後のインターステートハイウェイ建設と共に自動車交通は伸張した。60年代に安全問題が問われ、ラルフ・ネーダの消費者運動が起り、渋滞や環境問題も深刻化した。その後40年の間に安全ベルト、エアバッグ、衝撃吸収車体、予防安全装備が数多く導入され、事故死は激減した。しかし、それにも拘らず、現在なお、米国で年間4万人超の事故死は尋常でなく、家庭崩壊、経済損失の観点から、最優先の課題として、改めて取り組みかけた。これは、米日欧の関係官民の共通した見識である。

渋滞のストレスは、交通情報提供で和らぐが、渋滞緩和の実効は少ない。ETCの普及や有料特急レーンの活用、交通需要管理などが活用され、効果を上げつつあるが、未だ、渋滞の苦渋は、米国のみならず、先進諸国が数十年かけて、全面解決にはほど遠い難題と言える。

環境は自動車交通のみの課題ではないが、クルマの排出ガスと燃費は、寝食を忘れる努力によって、75年頃からエンジンと車両の革新がなされ、格段に良くなった。近年出現したハイブリッド車は、画期的に良い。燃料電池は世界的な開発競争にあるが、コスト的に普及は十年先とされる。既にモニター車が市場を走り、普及は、やがては来るだろう。代替燃料や電気自動車は、車両によるエネルギー消費と共に、車両そのものの製造にかかわるエネルギーを、全世界レベル、全ライフサイクルで長期的に考慮の上で推進されなければならず、一筋縄ではない。

今、こうした交通・輸送の難題に対して、米日欧は競争と協調の下にに真剣に取り組んでおり、今後の鍵は、行政や産業界の枠を超えた路車協調にあると見られている。幾つかの官民協調プロジェクトが立上げられ、政府投資と民間ビジネスが起っている。ITSは過去十数年の努力を経て、第二フェーズに移り、『ゼロビジョン:事故ゼロ、渋滞ゼロ、排気ゼロ』を掲げ、50%減を実現可能な目標に、ホットに挑戦している。

3.米国陸上交通・輸送法
SAFETEA-LU: セーフティ・ルーの大幅予算増

05年8月に、永年懸案だった今後6年間(04~09年まで)の本立法が30%増の30兆円:$286Bの記録的巨額予算で成立し、交通関係者は歓喜した。概要は次の様である:

・ハイウェイは30%、公共交通は46%、安全は220%の大幅予算増である。


・公共交通設営と活用を渋滞緩和策とし、身障者、高齢者、低所得層を含む全国民モビリティの重点政策とし、92から09年で公共交通予算は2倍超に上る。


・研究予算は40%増、特に大学の研究は163%の大幅増とした。

・ITSを主流化し、研究開発・設営予算は各局予算の中に吸収して大幅増とした。


4.主要施策とプロジェクト

SAFETEA-LUには、交通・輸送の課題対処と共に、将来の財源確保と政策の道筋をつける意図がある:

(1)安全性は最優先

・ハイウェイ安全性改善計画を新設し、危険な道路の改善予算を倍増した。歩行者、高齢運転者、通学路、工事域等の安全性向上も行なう。

・08年モデルから新車の窓に、正突・側突・転覆試験のレート表示を要請する。


・現在、安全ベルト法の施行州は全米の3割に過ぎない。今後はその施行州か、2年間に85%のベルト装着率を達成した州に大額奨励金を供与する。

・議会は飲酒運転を暴力犯罪と断定し対処する。03年の飲酒運転死は全事故死の40%の1万7千人、25万人が負傷、損失コストは$100Bを超えた。飲酒運転大統領委員会を設け、06年9月に飲酒運転死傷者削減策を勧告する。


(2)渋滞緩和の難題に交通管制と有料道路化施策を推進:

・リアルタイム交通情報の管理計画を策定し、渋滞、セキュリティ、事故対応の改善等に役立てる。

・通行料の徴収を柔軟に行い、渋滞緩和と共に、インフラ整備財源に充てる。


・州はHOVレーン運用の乗員要件に、二輪車、公共交通、低燃費車、料金を払いHOVレーンを使用する車両は除外を可とした。加州は、ハイブリッド車等のHOVレーンの一人乗り優先使用の先陣を切った。


(3)交通・輸送計画は国土・都市計画、環境計画そのもの:

連邦政府と州政府は連携して4年毎に作成、更新する。歩行者、自転車も配慮した結接点が円滑で利用し易いインターモーダルな交通・輸送を構築する。

(3) ITSの重点施策(4)ITSの重点9項目:

US DOTは、次のITS重点9項目の施策を04年から計画・推進している:

i. 全死亡事故の75%を占める追突・路外逸脱・レーンチェンジ事故を焦点とした車両の衝突回避統合化システムの全新車装備を目標とする。


ii. 路車間通信による事故防止システムを用い、交差点死亡・傷害を15%削減。

iii. 国民モビリティセンターを設立し、高齢者と身障者サービスを改善。

iv. 専用の通信機を路車に装備して交通情報を集配し、安全性と運行サービスを行うVII計画 (Vehicle-Infrastructure Integration)。

v. 幹線道路管理システムの統合化:Integraete Corridor Management Systems

vi. 道路天候情報ネットワークの統合化:Claus

vii. 緊急交通運用:Emergency Transportation Operations

viii. 世界共通の物流電子証明:Universal Electronic Freight Manifest

ix. 次世代911Next Generation 911

その後、以上に加えて、2006年末に渋滞緩和の施策が重点志向されている。

5.おわりに

交通・輸送の課題に挑戦できる技術と政策の両翼を得て、国家にも民間ビジネスにも、大変健全で良い時代が来ている
と思われる。SAFETEA-LUは、そうした時代を、国家予算を以って支援する基盤である。

特に、安全性、渋滞緩和、環境、公共交通などに対する方針や施策に重点があり、特徴がある。更に、本立法では、ITSを主流化したものと扱い、ITSの諸設営に当たって格別のITS予算でなくて良いとしたことも大きな特徴である。それでもなお、この立法が承認され、これから6年間を進める門出に当たって、既に、もっと入れたかった項目があり、特に、予算の増額規模は40%余りの増額要請との攻防であった様である。

なお、SAFETEA-LUは、
安全性、渋滞緩和、環境、公共交通などの重点施策の各項(Title)の上に、インターモーダルな交通・輸送の推進、総合交通・輸送企画・計画の推進と言う上位概念の傘となる項(Title)がかぶせられ、明文化されている。本立法の国民と国家に対する位置付けを踏まえている。大変健全で、良い時代が来るのではないかと期待される。一端の寄与ができればと願っている。