ITS & Automotive Systems

本ブログは Research & Consulting on ITS/Automotive Systems (www.sakuraassociates.com) のコメンタリーとインタビューのサイトです。ご投稿は敬意を以って歓迎、尊重致します。Norio Komoda 製作開始 2006年1月、公開 2007年1月

April 01, 2006

米国フリーウェイの特急レーン活用

目次

   1.ハイブリッド車等のHOVレーン優先走行が
加州で急展開
   2.米連邦総合陸上交通・輸送法 (SAFETEA-LU) の中の位置付け
   3.加州はその急先鋒
   4.プライバシー保護
   5.ハイブリッド車両の同好者の意見交換チャットWeb
   6.ユーザ数の伸張
   7.本施策のインパクト
   8.本施策の位置付け
   9.HOVレーンの有効活用の基礎研究は早かった
   10.この施策を、如何に受け止めるか

1.ハイブリッド車等のHOVレーン優先走行が
加州で急展開

『交通・輸送は、国民の生活の質であり、国家経済・生産性の基盤である』・・・これは、米国交通省のミネタ長官が好んで演説に用いる言葉である交通・輸送は、世界的に現代の深刻な問題で安全性と共に、渋滞はモビリティ、生産性、環境に影響する。ミネタ長官は、交通・輸送に関しては何十年のベテラン政治家であり米国交通省長官として歴代最長記録の貢献をされている

米国大都市地域のフリーウェイに設けられているHOVレーン (High Occupancy Vehicle Laneを、朝夕のラッシュ時に2~3人乗りの車両のみが優先通行できる中央側のレーン:図1) がある。最近の米国における交通・輸送政策の中で、現実となった大きな出来事の一つとして、このHOVレーンに対して、加州に於て、ハイブリッド車等の環境適合車両は、1人乗車でも優先走行が許可される様になった。これは、一般的には、2005年夏に成立した連邦法であり、それを加州は最先端で立法化し2008年1月1日迄の期限付きで有効とした


図1.HOVレーン:High Occupancy Vehicle Lane

朝夕ラッシュ時に2~3人乗り車両のみが優先通行できる中央側のレーン。写真左側のレーンにひし形マークがHOVレーンのシンボル。その右に、バスと複数乗り車両のみ、5-10 AM、3-7 PM 月-金 と表示されている。土日曜日は一人乗り車両も通行できる。時間帯等は州・地域により異なる。


2.米連邦総合陸上交通・輸送法 (SAFETEA-LU) の中の位置付け

これは、2005年8月10日に大統領署名を得て施行された向こう6年間の米連邦総合陸上交通・輸送法SAFETEA-LU (セーフティ・ルー: Safe, Accountable, Flexible, Efficient Transportation Equity Act for the 21st Century – A Legacy for Users) の施策の一部にある。本法は、+31%の大幅予算増額となった記録的な立法で、幾つかの新たな革新的な施策やプロジェクトがあり、その中の連邦政府ハイウェイの重要条項として、渋滞緩和政策:CMAQ (Federal Congestion Mitigation/Air Quality Program) があり、渋滞緩和、時間と燃料・排出ガス削減、交通・輸送費削減、所要時間の明確化と安定化、および安全性向上を狙うものである。この中に新規プロジェクトが数件あり、中でもHOVレーンの利用と運用規定が明確化、強化された。各州はHOVの乗員要件を設ける義務を負うと規定され、二輪車、公共交通機関、低排出車と省燃費車、HOT車両(High Occupancy Toll Lane Vehicle:通行料を払い施設を使用する車両)は任意で除外できるとされた。

この『低排出車と省燃費車は任意に除外できる』例外条項の規定に拠って、加州は全米で最も過激に先行し、今年夏以降、実施に向って走り始めた。

なお、この中のHOTレーンには、各州が、渋滞緩和を目的として、一人乗り車両にも通行許可できる特急料金を設定し、より広い裁量を与えることが可能で、既に、有料レーン化パイロットプログラムとして一部で実施されている。本法では、2005~2009年に15件の新たな特急レーンデモを実施することになっている。

3.加州はその急先鋒

現実には、本連邦法に先立って、2004年9月23日に、クリーンな代替燃料車、ハイブリッド車、および電気自動車によるHOVレーンの一人乗り車両に通行許可するカリフォルニア州議会法 2628が署名されていた。それが、2005年8月に施行された連邦政府の交通・輸送法によって、実施許可され、加州では、全米でも最も過激に先行し、2005年夏以降、現実に走り始めた。尚、すべての代替燃料車、ハイブリッド車が適合するものではなく、加州の定める排出ガス基準と45MPG以上のハイウェイ燃費レーティングに適合認証された車両車種が対象である。対象となるモデルの中でも、ハイブリッド車が最も多く、加州では、このところ急速にこの適応を受けたモデルが、目立ってHOVレーンを走行し始めている。

この恩典を受けたい車両は、加州政府によって用意されたIDステッカーと共に、ETCタグの普及がなされているサンフランシスコ湾岸では、ETCタグの装着が義務付けられる。恐らく、将来は、HOVレーンで、ステッカーのみでなく、ETCタグによる取締りや有料化の可能性を含めていると推察される。

図2.クリーンエア車両へのステッカーの表示
ステッカーは4箇所:両後部フェンダーと前後バンパー右部


4.プライバシー保護

現在サンフランシスコ湾岸では、本ETCタグを車両のプローブ(車両位置の発信機) として使用しているので、その個人の居場所を知らせるのはプライバシーに触れるとして嫌う方は、マイラー袋に入れて、有料橋を渡る場合のみ出せば良いとして、申し込み時に、マイラー袋が全顧客に配布されている。専用マイラーは金属コートの薄膜状のフィルムで出来ており、電波を遮断できる。ETCタグは、両面テープで、フロントウィンドウシールドガラスの上部に添付するが、更に、マジックテープが重ねてついており、タグのみ脱着可能である。


なお、このETCタグは、個別車両のIDは乱数化され、交通流の検出にしか使用されず、その記録は短時間で消去され、犯罪捜査などには使用しないとされているが、なおかつ、不安な方に対して安心感を与える主旨で
マイラー袋が全顧客に配布されている念の入れ方である。

図3.ETCタグとマイラーの袋

FasTrakタグ(前ウインドウ外から)。通常、室内後写鏡の前に貼り付ける。 電波遮断用のFasTrak専用マイラーの袋。金属コートの薄膜状のフィルムの袋。


5.ハイブリッド車両の同好者の意見交換チャットWeb

サンフランシスコ湾岸のハイブリッド車両の同好者の意見交換チャットWebが、ハイブリッド車発売当初から、意見交換の場として、私的に開設されている。親切な解説や、燃費の対比や、車両の諸批評、および今回のHOVレーンの使用申請の仕方や、クリーンエア車両ステッカーの好き嫌い、ETCタグの要請の批判など、かしましく興味深い。いわく、『クリーンエア車両ステッカーは、せっかくの美しいカラーの私の車をめちゃくちゃにしてしまう・・・見苦しい』等々。

6.ユーザ数の伸張

既に1万台が、カリフォルニア州でクリーンエア車両ステッカーによるHOVレーンの使用をしており、また、2008年1月1日までに、約75,000台のハイブリッド車両が、クリーンエア車両ステッカーによるHOVレーンの使用が許可されるとの話しがある。なお、カリフォルニア州、およびサンフランシスコ湾岸のETCタグのユーザ数は、2005年2月10日時点で下表の様である:

場所

割合

TCA: Orange County's Transportation Corridor Agencies

42%

527,000

サンフランシスコ湾岸有料橋

33%

412,000

OCTA/91: Orange County Transportation Authorityが民間企業からフリーウェイSR-911993年から管轄する事となった

12%

152,000

金門橋

10%

130,000

フリーウェイI-15

2%

27,000

合計

99%

1.25 百万


7.本施策のインパクト

HOVレーンを、一人乗りの低排出車・高水準の燃費車に走行する権限を与えたことは、米国の渋滞状況の実態から、非常に大きな効果と推察される。サンフランシスコ湾岸のフリーウェイには、場所によって、朝夕の或る時間帯のみ、2人以上、3人以上の乗員の車両のみが走行を許可されるHOVレーンが至る所にあり、そこを、渋滞を尻目に、スイスイと走行している複数乗員の車両があるが数は非常に少ない。低排出車は、ここを乗員や時間帯を気にせず走行できるのであるから、その効果は大きい。また、HOVレーンの活用効率が低いことを埋め、全体の渋滞緩和効果もある。HOTレーン化もまた良い施策である。その施策と前後して導入された今回の施策は、大変素晴らしいと観測される

8.本施策の位置付け

ハイブリッド車が、米国で発売開始された当初から、サンフランシスコ湾岸は、米国内でもベストセラー地域であった。特に、スタンフォード大学のあるパラアルト市とカリフォルニア州立大学バークレー校のあるバークレー市を含むサンフランシスコ湾岸は、ハイブリッド車などの低排出車の運転は、その環境配慮から、ステータスと見做されていた。それらの車両に、今回、実質素晴らしい恩典が与えられたことになり、この観点からも、画期的な施策と考えられる。


本立法が連邦議会で決まる前に、加州議会が議決した際に、フォード社が、反対を表明したことがあったが、今や、米国各自動車メーカからもハイブリッド車を主とした本法の適合車が出されており、大勢は止まらないと思われる。

米国は連邦法が許容したものの、実施は州に任されている。既に、HOTレーンの実用化は、幾つかの州で開始されているので、それに伴い低排出・省燃費車のHOVレーン使用許可も、特に、大都市圏から開始されるものと考えられる。マサチューセッツ州などでも採用検討が開始されている。

9.HOVレーンの有効活用の基礎研究は早かった

加州は、本施策の急先鋒であると述べたが、州は、環境に関して、常に米国内で先導してきている。それに限らず、NY州と並んで、何かと米国の中で先陣を切ることが多い。今回の施策は、単に新しいことを先んじるのみではなく、サンフランシスコ湾岸のサンノゼ州立大学にあるミネタ交通研究所で、2001年に、HOVレーンの有効活用について基礎研究報告がなされていたことは高く評価されて良い。それには、既に2001年の数年前から、基礎研究がなされた訳で、元々HOVレーンが空きすぎており、もっと有効活用できる様に、政府は相乗り奨励を始めていたが今一つ使用率が伸びなかった。今回、SAFETEA-LUでは、HOVレーンのHOTレーン化と共に、一人乗りの低排出・省燃費車のHOVレーンの無料使用を各州の裁量で許可した訳である。

10.この施策を、如何に受け止めるか

低排出・省燃費車の普及奨励策は、税制優遇のみがその手段でないとした本施策は一つのヒントであり、様々な施策が、国情、地域によって検討されて良いHOVレーンは一つの事例に過ぎないと考え、他に適応対象は何があるだろうか例えば
 ・交通需要管理を渋滞策、環境対策として考える一方で、ある地域への乗り入れの有料化に際し、低排出・省燃費車の優遇・普及策として、その課金ランクを無料、或いは様々なランクに設定することは、地域渋滞対策や環境対策に繋がる。
 ・バス専用レーンはサンフランシスコや日本の各都市にあるが、このレーンに対して、或る車種や低排出・省燃費車の通行許可も、ある条件を以って考えられるのではないか。
 ・公的施設への優先アクセス権は、現在、身障者に与えられた権限であるが、こうした低排出・省燃費車にも、類似のアクセス恩典を許容することも普及奨励策と考えられる。

この様な十分受け入れ検討に値する適応例は幾つも考えられ、国柄と地域の特徴を考えて適切な選択がなされても良い